2026/09/15
相続した山林は、境界が分からないままでも売れるのか——測る前に決める三つの順番【八ヶ岳西麓】
固定資産税の納税通知書に「山林」と書いてある。地番は分かる。けれど、行ったことがない。どこからどこまでが自分の山なのかも分からない。
八ヶ岳西麓(茅野市・原村・富士見町)で相続した山林のご相談を受けていると、この状態から始まる方が続きます。手元にあるのは固定資産税の納税通知書だけ、というところから始まるご相談は、複数の筆を相続された場合の定型と言っていい形です。
結論から書きます。その状態は落ち度ではありません。この地域では、そちらのほうが標準です。
山林の境界が分からないのは、珍しいことですか?
珍しくありません。八ヶ岳西麓では、境界が確定していない山林のほうが多数派です。
土地の境界と面積を一筆ごとに測り直す「地籍調査」は、国土調査法に基づいて市町村が進めています。国土交通省によれば、令和7年度末時点の全国の進捗率は53%。ただし、山村部(林地)と都市部では、この調査が特に遅れていると国土交通省自身が説明しています。
諏訪地域に絞ると、数字はもっとはっきりします。
| 市町村 | 地籍調査の進捗率(令和7年度末時点) |
|---|---|
| 富士見町 | 55% |
| 原村 | 24% |
| 茅野市 | 8% |
| 諏訪市・岡谷市・下諏訪町 | 0% |
茅野市が地籍調査に着手したのは平成23年度です。それ以前に作られた図面が、今も法務局に備え付けられています。茅野市自身の説明によれば、法務局にある図面の大半は明治初期の地租改正のときに作られた和紙の図がもとになっており、土地の形が実際と違っていたり、あるはずの土地が描かれていなかったりします。
つまり、あなたの山の境界が分からないのは、あなたが管理を怠ったからではありません。図面のほうが、もともと現地と合っていないのです。
なお、地籍調査そのものの費用は国・県・市が負担し、土地所有者の負担はありません。ただし、現地の立会いには所有者が出る必要があり、そのための交通費などは支給されません。県外にお住まいの相続人にとっては、ここが最初の壁になります。
境界が分からないと、何が起きますか?
相続登記は、境界が分からなくても済ませられます。止まるのは、その山を「動かす」段になってからです。
具体的には、次の四つです。
① 売るとき、値段が出せない。 買う側は、範囲が確定していない土地に値段を付けられません。面積が公簿と実測でずれていれば、そのずれを買主が引き受けることになるからです。仲介に出しても、買い手が現れる前の段階で止まります。
② 国に引き取ってもらう道が閉じる。 相続した土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」がありますが、境界が明らかでない土地や、範囲について争いのある土地は申請しても却下されます。要らない山だから国へ、という順番では進みません。先に境界の側を片づける必要があります。
③ 隣の売却まで止める側に回る。 隣接地の所有者が土地を売ろうとすると、あなたに立会いの依頼が来ます。「分かりません」としか答えられないと、隣の方の売却も止まります。境界は、自分ひとりの問題ではありません。
④ その間も、費用と責任は続く。 固定資産税は毎年かかり、倒木や崩落が起きたときの管理責任も所有者に残ります。動かせない状態のまま、持ち出しだけが続きます。
実務としては、「売りたい」より先に「まず、どこにあるのかを知りたい」というご依頼のほうが先に来ます。地番から公図と登記を取り、役所で調べ、ご相続人に子どもの頃の記憶を伺い、そのうえで現地を歩く——この順番で一筆ずつ場所を突き止めるところから始まります。
測量費は、何で決まりますか?
面積ではありません。何筆と接しているか、その所有者に連絡がつくか、の二つです。
山林の測量費が事前に読みにくいのは、次の四つが物件ごとにまったく違うためです。
- 接している筆の数——立会いをお願いする相手の数がそのまま手間になります
- 隣の所有者に連絡がつくか——相続登記が済んでいない隣地だと、相続人全員に当たることになります
- 現地に立てるか——道がない、藪が深い、斜面が急。同じ面積でも日数が変わります
- 杭や古い図面が残っているか——手がかりがあれば早く、なければ一から
この四つが重なるため、山林の測量は宅地より安くなりません。面積が大きいぶん、歩く距離と日数が増えるからです。ここは正直にお伝えしています。
逆に言えば、金額は現地と隣地の状況を見れば見当がつきます。一律の相場を当てはめても外れるので、当社では一筆ごとに見てからお伝えしています。
境界を確定させないと、売れませんか?
いいえ。確定測量をしないまま買い取れる山林もあります。
八ヶ岳ライフは仲介ではなく、自社で買い取って再生する会社です。仲介であれば、買主に引き渡す責任があるため「境界が分からないまま」では前に進めません。自社で買い取る場合は、そのリスクを当社が引き受けたうえで判断できます。実際に、相続人の方が三十年以上現地を訪れていなかった境界不明の山林を、測量士と協力して買い取ったことがあります。
ただし、すべてを買い取れるわけではありません。次のような山林は、当社ではお引き受けできません。
- 接道がなく、現地にたどり着く手段がないもの
- 隣接地との間に、すでに争いが起きているもの
- 公図・現地・記憶のどれをつき合わせても、範囲そのものが特定できないもの
動かないものは、動かないと認めたうえで、その先を考えたほうが早く進みます。買い取れない場合でも、隣地の所有者への打診という道が残っていることは少なくありません。
まず何から手をつければいいですか?
順番は、①どこにあるかを特定する → ②動かす必要があるかを決める → ③必要な分だけ測る、です。多くの方が、③から始めようとして止まります。
①の「どこにあるかを特定する」は、図面からではなく人から入ったほうが早く進みます。
まず書類で当たりを付けます。公図・字限図、登記事項証明書、市町村の林地台帳、固定資産の名寄帳。次に現地に立ち、古い杭、木の切り替わり方、尾根と沢の走り方を見ます。山の境界は、尾根や沢といった地形に沿っていることが多いためです。
それでも分からないときに効くのが、区(自治会)や財産区に聞くという道です。八ヶ岳西麓では、山の記憶が区の側に残っていることがあります。誰の代まで手が入っていたか、どこで切り替わっていたか——書類のどこにも書かれていないことを、覚えている方がいます。
ご相続人の記憶も、同じくらい使えます。子どもの頃に連れて行かれた場所、近くの目印、隣の家のお名前。「親が『山がある』と言っていた」という程度でも、公図と重ねると場所が絞れることがあります。書類だけを読み直しても出てこない手がかりは、たいてい人の側に残っています。
どうしても隣接地の所有者と合意できない場合は、法務局の筆界特定制度という道もあります。裁判によらずに、登記された土地の境界(筆界)を法務局が明らかにする手続きです。
そして③は、最後です。測量は目的ではなく手段なので、売らない山を全筆測る必要はありませんし、売る場合でも、接している一辺だけ確定させれば足りることがあります。
八ヶ岳ライフでは、①の「どこにあるか突き止める」ところからご一緒しています。納税通知書の地番だけの状態で構いません。公図と登記を取り、役所で調べ、現地を歩いて、そのうえで「この山は動かせるのか、動かさないほうがいいのか」をお伝えします。
境界が分からないことは、相談を始められない理由にはなりません。むしろ、分からないまま置いておくことのほうが、後の代に手間を送ることになります。
お取り扱いの範囲について
- 対応エリアは茅野市・原村・富士見町の3市町村です。それ以外の地域はお受けしていません
- 太陽光発電設備・大型蓄電池用地としてのご相談はお受けしていません
- 山林の査定・買取のご相談は、不動産鑑定士・宅地建物取引士の資格を持つ代表が対応します
お問い合わせ 八ヶ岳ライフ株式会社(長野県茅野市本町西5番23号) TEL 0266-72-5880(水曜定休)/担当:朝倉宏典 山林の売却をお考えの方は、1分かんたん査定フォーム からもご相談いただけます。


